幼稚園・小中高の教諭と違い、大学・短大・高専の教員採用は基本的に公募です。また、幼稚園・小中高の教諭は比較的採用人数が多いですが、大学・短大・高専の教員公募は非常に数が少なく、博士後期課程学生や社会人など外部の方からすると、戦うための情報が非常に少ないのかなとと思います。
そこで、本稿では、高専教員の公募を例にとって、公募情報からより深い情報を読み取っていくコツを紹介します。
公募情報はどこにあるか?
J-RECINです。私もこの通称イレチンで公募情報をゲットしていました。https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekTop
高専の場合、
https://www.kosen-k.go.jp/company/recruit/joho_kobo.html
にもあります。
公募情報
以下の公募の要項の例を基に話をしていきます。
高専の場合、人事についての規則を基にして公募情報の書式が作られます。書くのは(おそらく)問い合わせ先に名前がある学科長(コース長)です。
さて、中身を見ていきましょう。
公募人員
高専の1校または1学科における教員人数は、高等専門学校設置基準で厳密に定められています。その教員人数に沿って、教授3人を准教授(または講師)4人に読み替えるとか、教授3人を助教5人に読み替えるとかして人数を調整します。
教授・准教授(講師)・助教それぞれの人数も、設置基準に沿っていますが、その時の状況で若干変わります。
例えば
上記のように、教授・准教授(講師)・助教が4,6,0とか、6,3,1とかなっています。一般的に、4,4,2が標準なのかな?と思います。また、こちらの高専では、専門科目では講師の設定を意図的に行っていないようです。
この図から分かることは、例えば電気電子工学科は教授が多く教授より下が少ないためバランスが悪く次は助教を取るだろう、そんなことが透けて見えます。
例では准教授または助教という比較的珍しい募集です。比較的若い人を採用したがっているのでしょう。年齢については後述します。
所属
公募的にはあまり関係ありませんが、「創造工学科」というのは、従来の学科をひとまとめにして専門学科を1学科に束ねたものです。いわゆる括り入学を実施して入学者選抜を効率的に行うためにそのようなことをしているものと推察されます。
担当科目
ここは応募者にとってはかなり重要な点になります。また、学科組織にとっても、受け持てる授業というのは非常に重大なことです。一人だけしか受け持てない科目がある場合、その担当教員が辞めたら、非常勤を探すか新しい人を入れるかなどするしかないからです。したがって、この項目は書類審査や面接審査でも重要視されます。
例では、電気回路、電磁波工学、工学基礎、コンピュータリテラシ、電気工学実験、卒研、複合融合演習とあります。
ここから分かることは、公募の原因を作った前任者の担当科目です。高学年では電磁波工学など、低学年ではコンピュータリテラシや工学基礎といった科目を担当されていたのでしょう。
応募者であるあなたが電子工学科・電気工学科・電気電子工学科の出身ならばこの公募と強くマッチするという感じです。
書類や面接で、担当科目については必ず訊かれます。できそうにない科目は「できない」と言及することも大事ですが、できそうにない科目でも、「教えながら学びます」というような記述をして熱意をアピールしても良いのかな、と思います(教員をやってみると、自分の専門分野の科目でも復習が必要なことが非常に多いと気づかされますので)
卒研は専門学科ならば必ずあります。また、複合融合演習というのは、1学科制への移行に伴い開講した科目なので、そこまで重要視しなくても大丈夫です。
今回挙げた例の場合、専攻科の担当もあります。
電磁波工学特論などですね。
専攻科の担当教員は、准教授と助教で役割が大きく異なります。それは、学修総まとめ科目にあたる「特別研究」を主担当教員として行うか補助教員として行うかという差です。准教授は教授同様に主担当教員として行います。助教は、教授または准教授の補助をするという役割の違いがあります。ただ、ほとんどの高専では、助教も実際は補助ではなく実質的に主担当として学生指導に当たっていると思いますが。
今回挙げた例の場合、公募人員は准教授または助教ではありますが、このエレクトロニクスコース 電気工学分野の教員配置で教授が少なめの場合、応募者は助教よりも准教授相当の年齢・成果を有している人の方が採用されやすいように推察されます。
応募資格
H31年度の公募情報で重要な変更点があります。それは、年齢についての制限を記述できなくなったことです。以前は以下のような記述があったのです。
これが、雇用対策法の厳格な運用により記述できなくなりました。
詳しくは以下参照。
募集・採用における年齢制限禁止について |厚生労働省
ただし、採用側の学科(コース)における教員配置は、従来のように年齢と職位を関連付けたものになっていますし、基本的に定年まで勤め上げてもらうことを想定していますので、応募者の年齢は非常に重要視するものと思います。
もしあなたの応募予定の公募で、どうしても年齢が気になるようでしたら、問い合わせをしてみても良いでしょう。私は、「着任時30歳以下の方」という記述がありましたが、着任時32歳で内定をいただいた経験があります。当時、「30歳を超えていても応募できますか?」と問い合わせをしたら、「大丈夫です」と回答をもらったことがあります。学科長(コース長)は本当は年齢条件を出したいのだと思います。
他に博士の学位を有すること(令和元年9月までに取得見込みの方を含む)とありますね。これも専門学科において重要です。
高専における博士号の有無というのは、人事的に決定的な意味を持ちます。幼稚園・小中高の教員は「教諭」であって教員免許を有していますが、高専教員は大学・短大教員と同様に「高等教育機関」の教員なので、教員免許は採用の要件ではありません(ただし、一般科目教員かつ修士号しかない教員は教員免許と教務経験・研究実績が問われる場合あり)。その代わりに博士号を持つことが問われるのです。
高専の専門学科では、独立行政法人化前のような昔では、博士号は不要でした。今定年を迎えるかどうかという年齢の教授で学位を有していない人は結構います。そのような教授は、学習総まとめ科目を担当することができないため、担当している教員からは不公平に映ります。そんなこともあり、高専では教育の高度化を進めていますので、教授で学位を持っていないという人は今後いなくなるものと思います。そもそも学位がないと教授に上がれないですし、学位がないと助教にすらなれないのですから。
こちらの例では取得見込みも結構厳しめです。
(令和元年9月までに取得見込みの方を含む)
ということは、応募時・内定時までは取得できなくても良いが、着任時は学位がなければならないということですね。
私が入った10年弱前は、単に「学位取得見込み」でも内定が出ていました。そのような人は、任期あり採用で、単年度更新の対象でした。私は学位取得して着任したので、任期なし採用でした。当然更新のようなものはありませんでした。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
大学・短大・国研などのアカポスはますます取りづらくなり、高等教育機関では最下層であると認識されている高専教員ですらも内定を取るのが難しくなっているようです。
はてな匿名ダイアリーで、新卒の博士号取得者が高専に内定をもらったという記事がありました。この方は、応募13高専、面接7高専、内定1高専という結果に驚きました(どちらの高専に応募されたのか存じ上げませんが、田舎高専などでは募集しても人が集まらないという認識を持っていたので、記事を読んでかなり驚いたのです)。
またこちらの方は、私が高専の公募に応募したときに抱いていた求職ポリシーと同じでした。
就活を始めるまでは「ポスドク・任期付きドンと来いッ!」とか思っていました。しかし、いざ就職を初めて色々と自分の周りの環境を見ていたら任期付きポストで結論を先延ばしして競争に打ち勝っていくことは無理(自分の性格に合わない)と判断したので、任期なし(パーマネント)のポジションだけを狙うことにした。
こちらのブログの方も同様の求職ポリシーですね。
anond.hatelabo.jp任期あり(3年)都内助教の内定と任期なし地方高専で悩まれ、結果的に高専に着任されたとのことです。
こういったポリシーをもつ方は、高専に合っています。任期なし採用というのは、高専公募の大きなメリットであると考えています。高専で働いている(若手)教員からすると、任期なしというのは凄まじい安心感で、どっしりと教育研究活動に専念できる心のゆとりを与えてくれます。
高専における教育は、研究は大きな柱ではあるけれども、それ以外の教育や地域貢献も重要です。特に、日々接する学生への指導については、大学や短大と大きく異なるポイントだと思います。
その辺も含めて、高専教員の公募に興味のある人は、以下の記事(以前http://crystalfield.blog65.fc2.com/で書いていたものを移管しています)を参照してください。このページでは、高専教員に採用された方の貴重なコメントも掲載しています。
ご質問も歓迎します(立場上一般的なことしか回答できませんが)。