本稿では、高専や高校の推薦入試に課される作文で、どのような書き方をすれば良い評価点を得ることができるかをかいつまんで説明します。基本的に中学生向けですが、家庭学習支援として好ましい保護者さんの関わり方も説明しています。
なお、私自身は高専で作文評価を担当したことがありますが、本稿ではあくまで一般的なこと・あるいは私見を述べており、個別の学校に当てはまるものではないことをご了承ください。
見落としがちだが一番大事なこと―アドミッション・ポリシー
どの学校も受け入れる学生(生徒)の方針があります。これを「アドミッション・ポリシー」といい、学校が求める学生像のことです。高専では必ず公開されています。
内容はどの高専のどの学科も概ね同じだと思います。例えば、
- 技術者として活躍したいと強く希望を持っている人
- 総合的な基礎学力を持ち、理数系科目および英語が得意な人
- さまざまな実験や実習に周囲と協働して取り組める人
- 科学や技術に関心を持ち、新しいものの創造に興味を持っている人
- 科学技術を学ぶのに必要な基礎学力を持っている人
- コミュニケーションの基礎が備わっている人
- 社会への貢献意識を持っている人
例から、概ねアドミッション・ポリシーの各項目は、
- 技術者になるという意欲
- 基礎学力
- 社会貢献
- コミュニケーション力(チームワーク力、リーダーシップ力)
- 技術者倫理(社会・地球の一員としてあるべき意識)
です。主に学力・時事問題などの認知能力とコミュニケーションスキルなどの非認知能力があることを確認しています。
受験生はこのアドミッション・ポリシーをあまり読まないと思いますが、実は最も重要な記述です。なぜなら、教員はアドミッション・ポリシーの各項目を受験生が満たしているかどうかを作文の記述から評価しているからです。
例では高専を挙げましたが、高校の場合も求める生徒像はどの学校も定めているはずです。
作文テーマの例
「社会の安心や安全をおびやかしている身近な問題について,何か一つ例をあげ,その問題をうまく解決していくためには具体的にどのようなことをすればよいのか,自分の考えを400字以内で記述しなさい」
※長岡工業高等専門学校 » 第1学年入学者選抜(一般選抜)過去の作文テーマ
超高齢社会*の日本において、技術者が果たすべき役割について述べなさい。 (文字数は、600字以内とする。)*超高齢社会とは、65歳以上の人口の割合が全人口の21%を超えた社会を指します。
※https://www.sendai-nct.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2018/02/206_01-01-H30sakubunn.pdf
例から分かりますが、作文テーマには問いたいテーマがあります。アドミッション・ポリシーの段落で説明した通りですが、「社会問題への関心」「問題解決能力」「技術者としての意識」などを問うようなテーマが採用されます。長岡高専の例では、生徒自身の身近な社会問題を提起させ、自分の貢献によって社会をより良くするための具体的な内容を問うています。仙台高専の例では、超高齢社会における技術者としての社会貢献を問うています。
評価点のつけ方
アドミッション・ポリシーの各項目を満たしているかどうかを、1~3や1~5などの多段階で評価します。1~5では、3が「普通」で4や5が高い評価を表します。1や2はアドミッション・ポリシーを満たしていることが確認できない場合につけます。その場合、なぜ確認できなかったかを付記する必要があります。だから、審査員は1や2を相当でないとつけません。
また、評価は教員が複数名(3名など)で同時に行います。一人で評価するとどうしても教員個人の国語力や興味・関心により偏りが出るため、複数名で評価して生徒の評価をより客観的につけるのが一般的です。
評価のポイント
教員は皆一度に数十人分の作文を読むことになりますので、
- パッと見で評価できること
- アドミッション・ポリシーを満たしていること
に分けて評価します。
ぱっと見:最低限以上の文字数であること
ぱっと見の項目はアドミッション・ポリシーに関係ありませんので評価対象外です。しかし、ぱっと見で文字数が少なすぎると「内容が薄くてアドミッション・ポリシーの確認ができない」「基礎学力がなさそう」などの先入観が審査員についてしまいます。先入観は印象に過ぎませんが、評価中採点担当者はこの先入観を抱くことになります。
したがって、400文字以内と書いてあったら360文字(8割以上)~400文字を目標としてください。
ぱっと見:読みやすい作文であること。基礎的な国語力の評価
採点担当者が読みやすい作文になっているかどうかです。アウトプットする国語力を評価しています。具体的には、
- 段落の最初は1文字空いているか(インデントと言います)。
- 序論・本論・結論という3段論法になっているか。
例えば、ぱっと見で序論と結論を読み、対応関係になっているかどうかを判断します。 - 丁寧な字で書いてあるか。
綺麗な字はもちろん素晴らしいですが、綺麗でなくても丁寧である必要があります。殴り書きの文字は読みにくく、誤って読む可能性もあります。
ぱっと見で読みやすい作文ではないと、採点担当者は「先が思いやられる」と思います。読みにくい感想文やレポートほど評価しにくいものだからです。
アドミッション・ポリシー:必要な記述があること
アドミッション・ポリシーを満たす各項目が記述されているかどうかを見ます。厳しめに評価するならば、各項目を確認できなければ1または2がつきます。ぱっと見で国語力を確認できれば、1はおそらくつきません。
必要な記述がない一方で不要な記述がある場合、総合的に判定して各項目に1がつく場合があります。
アドミッション・ポリシー:キーワードが入っていると良い
時事問題への関心や技術的・社会的な関心をアピールするには、ホットなキーワードを入れるのが効果的です。AI、IoTなどの代表的な言葉だけでなく、日本政府の科学技術政策の標語(Society 5.0など)や技術の名称など、具体的なキーワードを書くと採点担当者はアドミッション・ポリシーを確認しやすいです。
高専の理事長などは、高専を卒業した技術者の卵には“Social doctor”(社会のお医者さん)になってほしいと色々な場で発言しています。作文にもこのような、教育関係者が好きそうなキーワードを書くと良いでしょう。
また、地元での社会問題を具体的に取り上げるのも効果的です。何せ採点担当者もまた地元の人ですから、地元の社会問題に敏感な生徒さんというのは心強く感じるものです。
保護者さんの関わり方
保護者さんは、生徒が試験で良い作文を書くために、
- 学習環境の提供
- 社会人・年長者として広い視野に基づくアドバイス
などをしてやれば良いと思います。作文テーマは社会問題とその解決策や技術者としての意欲を問うものですから、新聞を取ってやったり、調べ物をするためのパソコンを買ってやったり、図書館へ連れて行ってやったり、社会見学に連れて行ってやったり、海外研修に参加させたりするのが効果的です。我が子を放置するよりも、自分も一緒に学ぶ気持ちでいると良いのではないでしょうか。
また、私の指導の経験から、中学生が見えている社会の視野は、一般的に大人が思うよりもずっと狭いと感じています。保護者の身近な社会問題を子供に話して、子供の社会への意識を刺激してやると良いと思います。
作文を書くための国語力なども必要ですが、これらも含めて、作文対策は短期で対策できるものではありません。むしろ、普段からニュース番組を見させたり、ボランティア活動をさせたりして、その結果や感想を話し合ったり、日記などにまとめさせるといった学習をさせていれば、どのような作文テーマであっても対応できるでしょうし、特段の試験対策は不要だと思います。この学習は、学校の教員がさせにくい、キャリア教育的な学習と言えます。
作文対策(技術的なところ)
作文の技術的な書き方についてはたくさんの参考ページがあるのでそれを参考にして下さい。技術的なことは、さっと読むだけでも違いが出ると思います。
高校入試の作文・小論文 書き方と7つの基本ルール [高校受験] All About
https://school-post.com/hint/suisenexam_write/
本もあるようです。
高校入試 作文 小論文 合格ガイド: 世界一わかる! (高校入試合格ガイド)
- 作者: 高校入試問題研究会
- 出版社/メーカー: 増進堂・受験研究社
- 発売日: 2013/09/22
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
本は、保護者が買い与える例が多いのかも知れませんね。この本に加えて、保護者が家庭学習として子供の試験対策に関与できれば尚良いかと思います。
終わりに
本稿では高専・高校入試の作文(小論文)の書き方・高得点を得る方法を採点担当者の観点から紹介しました。結局、良い作文を書くために必要な対策は、中学校での勉強に加えて、普段から社会へ興味・関心を持つこと、広く時事に触れること、将来何になりたいかなどについて考えることなどが必要になります。
とはいっても短期勝負の生徒さんもいるでしょう。それには、やはり付け焼刃でも良いので、出願から試験日までの間であっても、新聞の1面、政治面、社会面、国際面を読んで国内外の様々な時事に触れると良いでしょう。
良い作文を書いて第1志望の学校に入学してください!
中学生・保護者の皆さん、質問があれば答えますのでコメントくださいね~