「老後に年金2000万円が不足する!」という年金問題が話題ですね。本稿では、この問題をシンプルに整理した上で、サラリーマン世代が老後のための資産形成としていくら位積み立てて行けば良いのかを考えます。
「年金2000万円不足」の根拠
話題となった資料
まずは話題の発端となった資料を見てみる必要があります。
※iDeCoを始めとした私的年金の現状と課題,厚労省年金局企業年金・個人年金課,2019年4月12日
これは、総務省の2017年「家計調査」からのデータです。家計調査は個人消費支出の最も重要かつ基本的な統計資料であり、この調査結果から国や地方自治体の予算が組み立てられています。
表にある高齢夫婦無職世帯の収入・支出は当該世帯の各家計項目の中央値を算出したものです。だから、「こんなに使わない」や「少なすぎる」など数字の印象に個人差があるはずです。
ここでの社会保険給付191,880円は国民年金、厚生年金、共済年金を平均した値です。日本は中小零細企業のサラリーマンが圧倒的に多いので、厚生年金の割合が高いはずです。
実支出は実収入よりも5.5万円多いため、60歳から90歳まで30年間生きる場合、2000万円が赤字になるという試算です。だから、公的年金以外に貯蓄しておかなければ老後破産するよと金融庁が指摘したのです。
この試算に恣意性はなく完全に客観的なデータだと言えます。また、「生活費が不足する」という結論は最近出たようなものではなく、だいぶ昔から言われていたことです。
若い世代の認識
日本経済が好調だった時代は所得が増える世帯が多く、あまり心配しなくても良かったのでしょう。退職金もしっかり出ていたのでしょう。だから、公的年金が不足していてもあまり問題にならなかったのだと思います。それどころか、日本の金融資産の8割は高齢者が握っています。高齢者は裕福なのです。
一方の私のような30~40代は子供の頃から少子高齢化のあおりで「高齢者1人を2人で支える」だとか「1.5人で支える」だと教え込まれ、現役世代から資産形成の自助努力を求められてきました。
したがって、ニュース番組では「年金が不足する」とセンセーショナルに報じていますが、そんなこと百も承知(中学の社会科の授業で学んで以来ずっと承知している)であり、速報性も重大性もありません。むしろマスコミが参院選を念頭に政権批判をしたいだけというのは目に見えています。根本的な問題である少子化を避けて議論しているのですから。
我々以下の世代(10代後半~40代)は退職金がもらえて個人年金を十分に作れる、安定した会社を志向する傾向がどんどん強まってきました。
私は19~20歳位の学生の就職指導をしていますが、彼らの希望する企業は
- 第一に「ホワイト企業であること」(時間外労働が過大でない)
- 第二に「安定していること」
- 第三に「福利厚生が充実していること」
を挙げます。勤務内容よりも労働条件を重視しているのです。お金に困らずに仕事をしていくことは人生設計上重要であるため、彼らの希望は至極真っ当であると言えます。だから、潰れるかも知れないベンチャー企業よりも有名企業に行きたがるのです。ただし学生は自分や保護者の知っている企業の中でのみ、自分が安定していると思い込んでいる企業を探そうとするので、有名企業やインフラ系や公務員に偏る傾向があります。尤も、最近はだんだん当てはまらなくなってきているようですが。
老後の「年金2000万円不足」を漠然と心配するよりも、建設的かつ具体的に今後を考える
先述したように、年金2000万円不足は現状の家計調査の中央値を基にしたものであり、個人個人に当てはまるものではありません。足りなさそうであれば何かしらの消費を抑えれば良いのですし、何かしらの労働で稼げば良いのです。また、今すぐに老後がやってくる訳ではないので、少しずつ対策していけば良いのです。
ニュースで出てきた値や論評をそのまま飲み込んではいけません。誤解してしまう恐れがあります。また漠然とした心配は強い行動を生み出しません。なるべく具体的に当たるべきです。
大事なのは、
- 計画的な人生設計:豊かな人生を歩むためにはどうしたら良いかを考える。幸せの価値観は人によって異なる。お金があれば必ず幸せという訳ではないし、お金がなくても幸せ、という訳でもない
- 収入を増やすこと:自己投資をしてできることを増やす、不労所得を得る
- メリハリのある消費:無駄な支出と有益な支出に分け、なるべく有益な支出にのみ消費する
ことです。私も家族を巻き込みながら、家族に負担を強いらない程度に家計改善を進めています。
老後のための資産形成を具体的に考える
先述の家計調査結果を基にして、我々のような若い世代(20代~40代)がいくら位準備すれば良いのかを考えます。なお、調査結果は高齢夫婦無職世帯のものであり、独身の方や高齢になってもなお扶養家族がいるかも知れない人には当てはまりません。
年金の仕組み
年金給付については、下記動画が分かりやすいです。
【DHC】2019/7/8(月) 田北真樹子×高橋洋一×居島一平【虎ノ門ニュース】
21:30からです。元財務官僚で年金数理人でもある高橋洋一氏が年金を分かりやすく説明してくれています。
高橋氏のシンプルな年金の説明は以下の通りです。
- 20歳~70歳までの50年間で自分の所得の2割を保険料として払う。
50年間×0.2=10年間分
つまり、自分の所得の10倍を払うことになる。 - 70歳~90歳までの20年間で自分の所得の5割をもらう。
20年間×0.5=10年間分
つまり、50年間で貯めたお金を20年間掛けてもらうことになる - 70歳で死んだら掛け損。90歳で死んだらトントン。100歳まで生きたら30年間×0.5=15年間で自分の所得の5年分得。
- 半分の人がいつかの時点で死ぬから、その分のお金を生きている人に渡すという保険が年金保険。早死にした人がもらうはずだったお金を長生きした人に渡すという仕組み。
明快な説明です。年金給付額は将来の人口推計と賃金・物価を基にした厳密な数理計算ではじき出されているため、そもそも年金不安もクソもないですね。
高橋氏の説明の結論は、
- 年金不安を解消する、つまり年金を現役世代と同じ額だけもらうためには、保険料率を2倍とか3倍に上げるしかない。
というシンプルな話でした。
長期的には、保険料収入を増やすべく子供また人口を増やすか、経済成長により一人当たりGDPを増やすか…それ位しかないことなので、そもそも政局にするような問題ではないのでしょう。だから、マスコミや特定の政党の主張はナンセンスなのですね。
必要な年金給付額
- 実収入:209,198円
- 実支出:263,718円
年金給付額は賃金と物価の推移を基に調整されています(マクロ経済スライド)。
※マクロ経済スライドについては、下記リンクを参照してください。本家の専門家による分かりやすい説明です。
マクロ経済スライドってなに? | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省
したがって、20~30年後の必要額は2,000万円よりも多くなっていることが予想されます(日本は2%のインフレ目標で、実際には0~2%のインフレで推移していますので)。
しかしながら、収入と支出の割合は変わらないのではないかと思います。そうすると、実収入21万円に対して不足額5.5万円、つまり収入に対して26%の不足をどう埋め合わせるかということが重要です。
高橋洋一氏の説明から、年金給付額が現役時代の収入を上回ることはありえません。したがって、年金不安を解消するためには、以下の2つが考えられます。
- 年金給付額と同額の支出額に抑える
- 不足額を取り崩すべく蓄財する
1は家計の見直しで解決します。定年になる少し前に考えるようなことです。
2は資産形成であり、若い今から考えるべきことです。次項で考えます。
資産形成をいつ始めるかで難易度が変わる
本稿では、老後資金として目標額2,000万円を貯めるにあたり、
- 何歳で始めるか?
- どんな口座を使うか?
- いくら積み立てれば良いか?
を考えます。
何歳で始めるか?
- 20歳
- 30歳
- 40歳
- 50歳
の4通りで考えます。なお、夫婦でお金を貯め始めるとします。
どんな口座を使うか?
- iDeCo:60歳で終了
- つみたてNISA:2038年で制度終了
iDeCoもつみたてNISAもどちらも非課税投資枠です。
- つみたてNISAは誰でも40万円/年
- iDeCoは一般企業のサラリーマンならば27.6万円(23,000円/月)
iDeCoは拠出金額全額が所得控除の対象となりますので、iDeCoを優先します。
いくら積み立てれば良いか?
シミュレーションには楽天証券の積み立てかんたんシミュレーションを用います。
- 20歳:2,000万円を40年間で貯める
リスク許容度によって積み立てに必要な金額が変わります。
リスク許容度0:定期預金
20歳からでも、定期預金だと毎月42,000円貯めなければなりません。
定期預金金利は元本割れしない代わりに極めて低い利回りのため、長期投資ではまったくお勧めできません。
リスク許容度高め:株式インデックスファンド
長期投資であれば短期的な下落を考える必要はないです。余裕資金で粛々と全世界株式(利回り5%程度)、先進国株式(利回り6%程度)、新興国株式(利回り6%程度以上)を買付するのが良いでしょう。ポートフォリオは先進国株式をメインに据えるのが良いです。
ポートフォリオについてはぜひ過去の投稿記事をご覧ください。
先進国株式を積立した場合は、
複利の力を得ることで、10,000円程度の積み立てで2,000万円貯まります。定期預金は直線で増えるだけですが、複利では指数関数的に増えます。定期預金との差は32,000円程度です。iDeCoのみで十分積み立てできます。したがって、資産形成は若い内から始めるのが賢明です。圧倒的に楽です。
- 30歳:2,000万円を30年間で貯める
リスク許容度0:定期預金
30年間積み立ての場合、毎月56,000円程度です。40年間積み立てよりも14,000円ほど増えました。iDeCoだけではダメで、銀行の総合口座などで増やすことになります。
リスク許容度高め:先進国株式インデックスファンド
40年積み立ての場合よりも9900円ほど増えますが、iDeCoだけで積み立て可能です。定期預金との差は36,000円です。
- 40歳:2,000万円を20年間で貯める
リスク許容度0:定期預金
20年間積み立ての場合、毎月83,000円程度です。30年間積み立てよりも17,000円ほど増えました。毎年100万円拠出する必要があります。もちろんiDeCoのみでは不可能な金額です。
リスク許容度高め:先進国株式インデックスファンド
30年積み立ての場合よりも23,000円ほど増えます。夫婦でiDeCoに加入すれば、43,000円の積み立ては可能です。専業主婦(主夫)でも23,000円拠出可能です。定期預金との差は40,000円です。
- 50歳:2,000万円を10年間で貯める
リスク許容度0:定期預金
10年間積み立ての場合、毎月167,000円程度です。20年間積み立てよりも83,000円ほど増えました。毎年200万円拠出する必要があり、子供が大学生などの場合、現実的に拠出できる金額ではなくなります。
リスク許容度高め:先進国株式インデックスファンド
10年積み立ての場合、夫婦でiDeCoとつみたてNISAを駆使し、さらに特定口座などを用いれば可能です。グラフの反り具合から分かるように、10年程度では複利の力を生かしきれません。
- iDeCo:23,000円×2=46,000円/月
- つみたてNISA:33,333円×2=66,666円/月
- 特定口座:9375円/月 → 1,536,369円貯める必要あり。
特定口座では売却金額の20%課税されるため、1,536,369円×1.2=1,843,642円貯める必要があります。結果として、11,250円/月の積み立てが必要です。 - 合計で、123,916円/月の積み立てとなります。20%の課税のために2,000円/月ほど増えました。
まとめ
2,000万円を夫婦で貯めるためには、iDeCoやつみたてNISAは国民年金や厚生年金を支払った上での拠出となりますので、余裕資金が十分なければ続けられません。
それでも、20歳や30歳から年利6%程度を見込める先進国株式インデックスなどで積み立てを始めれば1万円~2万円の拠出で済みます。
したがって、老後のための資産形成で重要な点は
ということになります。
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